2014年10月3日金曜日

事始別館1-2 「やる気」のありすぎ(2) トラブルになるとき



やる気のないメンバーも困るけれど、やる気のありすぎる人の扱いもまた大変です。

やる気のことを心理学ではモラールといいます(モラルとは違います)
モラールについての続きです。



やる気がありすぎてトラブル・・


1-1のケースは医療の例ですが・・・そのほかにも


 ・悪天候にもかかわらずスケジュールどおりの運航を強行して事故
 ・観客を喜ばせようと無理をして事故
 ・もっと完璧な治療をしたい、と休日一人で頑張って失敗・事故


こんな例が挙げられています。もっとありそうです。


 上に書いたようなことは、結果がよければ仲間内から「褒められたり」「すごいね」と尊敬されたりしがちです。もしも、褒められなくても密かな自己満足に浸れます。

 でも、「バカ野郎」と仮に成功した後でも叱ってくれる人がいる組織のほうが健全なのです。小説「査察機長」(内田モトキ)では機長昇格試験で失格させられる例が出てきます。主人公も定期審査飛行で悪天候のなか「なんとか」「うまく」手動で着陸し、実力を見せたつもりが、あとで注意を受けたりします。(「技術があることはわかった。しかし、何故、安全のためにオートを使わないのか?(その判断が問題だ)」ということです)

 失敗がはっきりした後で「良かれと思った」とか「もっと、よくしてあげたいと思った」と,「善意の失敗」のようにも思われるのですが・・・・

「目標構造の取り違え」と「ミッションエラー」

 一般に仕事にはいくつもの目標があります。すべてが100%でなくとも、なんとかそのバランスを取りながら進められています。ところが「ある」目標が明確であり、具体的である(ありすぎる?)ために、より上位の目標であるはずの「乗客の安全」などを「切り捨てて」(ついわすれてしまう)しまうことがあります。目標構造や全体状況とのミスマッチが発生してしまうのです。

”better late than never ”、”safety before schedule
「どっちも大事」はだめ 必要なのは目標でなく「目標構造の明確化」

「安全と定時性のどちらが大切か?」と改めて問われると当然「安全」と答えることができるのですが、目標が多数混在していたり、状況が切迫している時など目標構造の上下が見えにくくなるようです。そんなときは目標を絞って上下関係を明確にしなければなりません。これを典型的に表現していると思われるのがオーストラリア・カンタス航空の安全標語です。これは間違えようがありませんし、会社の憲法ですから、社長といえども違う方針はだせません。「遅れないように・・・」などと焦ることもなくなりそうです。

 他の航空会社も内容的には同様の安全標語として掲げているでしょうが、シンプルに「何が最優先か?」と示していることが大事なのです。注1

組織のメンバーのモラール(やる気)というのは以下の要因に支えられているそうです(海保らによる)。

 ・明確な集団目標がある

 ・目標の設定や実行に自らが関与しているという意識

 ・労力や報酬が公平

 ・着実に目標に向かっているという感じが持てる

 ・自分の活動の意義の認識が出来る

適切なモラールが「過剰なモラール」になってしまう要因
 
 ・自己顕示欲。カッコよくしたい、鮮やかにしたい。感謝されたい。

 ・凝集的な組織(仲間内の価値観が優先される)

(参考)
モラル・・・一般的な道徳観のこと
モラール・・・職務遂行上における意欲のこと ですがインターネット上のkotobankに説明が載っていました。モラールは、勤労意欲(労働意欲)、士気と訳される。職場の労働条件や労働環境、人間関係や帰属意識などに影響されて生じる従業員の意識をさす。
モラールが、どちらかといえば集団的な感情や意識に対して使われる概念であるのに対し、モチベーションは個々人の意識に関する概念といえる。

 モラールもモチベーションもなければ仕事はできません。しかし、どれも過剰になるとそれはそれで危ないことになります。私たちの病院でも「ちょっとアブナイ」と思うことがあります。そして、そのことに自分から気づくことはなかなかできません。
 その時、必要なのは事実に照らして客観的に見ること、見れなければ他の眼(基準)に沿っているかどうかをチェックすること、違う考えの人(眼)をいれること、などが大切なのです。

注1:よく言われる標語に「安全第一」があります。20世紀の初めにUSスチール社長ゲーリーさんという方が打ち出したという方針です。しかし、ゲーリーさんは「安全第一、品質第二、生産第三」と言ったのであって、この比較(優先順位)が重要なのだと思います。でなければ「安全も大事だけど、売り上げも大事だよね」などということが「もっともらしい説得力」をもつことになりかねません。

日本ヒューマンファクター研究所の前田壮六氏はその歴史をこんな風に説明しています。

アメリカでは、当初、経営の優先順位を「品質・生産・安全」として活動してきたが、アメリカの鉄鋼会社USスチール社のゲーリ(Elbert Henry Gary)社長は1912年に「In factthe term "Safety First" was coined at U. S. Steel in 1912. For our companysafety is our primary core value.」として、それまでの経営方針を「安全第一・品質第二・生産第三」という安全第一主義に切り替えたのである。それは、労働災害の多発に対処するために、運搬距離の短縮、道路、標識、機械のすべてに安全装置を取り付け安全確保に惜しみなく投資したと言われている。当時の社会的な背景から、この方針を打ち出すに当たって役員の一部には強行に反対する意見もあったようであるが、断固押し切り、「安全第一」を社是に採用したそうである。その結果、事故や災害は減少し、当時だれもが心配した品質・生産の低下も、予想に反し、毎年品質が向上し、生産も増加したとのことである。それ以来、アメリカ各地で「安全はペイするものだ」ということが実証され、安全に惜しみなく投資する企業は躍進の過程をたどるに至るのである。
 

ある日、通勤途中でみかけたビル建設現場にはこう掲げられていました。

「ミッションは安全・品質の両立」「実現せよ「品質の安心・施工の安全」

私には、これでは何が一番かわかりませんでした。あれこれと考えなければならない安全標語はよくないと思うのです。

幸い、ビルは無事完成したようで・・・













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