2015年7月4日土曜日

本日のヒヤリハット 「またやっちゃった」 でも、アサーションに助けられ

まあ、簡単な手術の、「簡単な」麻酔。小一時間予定。
患者さんは小さいおばあちゃんだ。


気管内挿管下での静脈麻酔。筋弛緩剤は使用していない。
安定して経過。手術は半分以上進んでいた。ここまではいつもと同じ、順調だ。

ところが、酸素飽和度と心拍を示す音のトーンが変わった。
それまで、100%を示していた酸素飽和度が99⇒93⇒91・・・・・70と見る間に下がっていったのだ。

「あれーっ?」と思いながら、さすがにマニュアル換気に切り替えたが、手の感覚は少し「固い」のでバッグを握る手に力が入る。横の呼気炭酸ガスモニターを見た。異常はないようだ。波形もいいし・・・。が、とりあえず酸素は100%にした。
ところが、マニュアル換気に切り替えたあとから、急に血圧も下がりだした・・・・・70mmHg。「エーッ!?」

一見ボーッとしながら?内心あわてる麻酔医。
そんなことは関係なく手術を続ける外科医。

「何だ、何だ?」という麻酔医に
「先生!呼吸音を聞きますか」と男性看護師
「うーん、そうだな。じゃあ、聞いてみて」と麻酔医

「左の呼吸音が小さいみたいです」(別の看護師)
「えッ 気胸?あっ!いや、挿管チューブが深いかも。22cmだけど20まで抜いてみよう」
チューブに巻きつけられた絆創膏を緩め、チューブを浅くしたところ、少しづつ酸素飽和度が上がってきた。81⇒ 86⇒ 92⇒ 99%・・・ 同期音のトーンも元の高音に戻った。
皆、胸をなでおろした。

「ああ またやっちゃった」
入れ歯をはずしたばあちゃんだった」


・・・・・・・・・・・・・

タイミング良く、アサーテイブな提案をした看護師

気管内挿管が深めだった、ということに加えて、頭部が動いた(未確認)ことで・・・起きたことを、時系列で記述すると

気管チューブが右側に深く入ってしまった
 ⇒片肺⇒低酸素(警報)
(麻酔医は低酸素警報が鳴ったので、反射的に、手押しの換気を強めた)⇒胸腔内圧上昇⇒静脈環流低下+右心負荷⇒低血圧ショック

でも、このエピソードを紹介したのは「またやっちゃった」というヒヤリハットが目的ではありません。この時の看護師のアサーテイブな発言が有効に機能したことで、問題を早期に解決できたと思うからです

「先生、○○したら」「○○は?」と言う問題解決型提案を次々に発して、ともすれば皆が沈黙したり、フリーズてしまう時間をのりこえたと思うのです。
看護師は多くの場合、警報や危険なことに気がついたような場合、そのことは報告しますが、「治療や処置に立ち入った」ような発言・提案はしない傾向にあります。

とくに「呼吸音を聞いてみますか(みましょう)」という提案は、ともすれば表示されているデータ(モニターの数字や波形)だけで判断しようとする傾向になっていることを反省させるものでした。原則にもどって、簡単に原因がつかめたのです。また、麻酔医は過去の経験を、この一言で思い出しました(リマインダー効果?)。(*注1)

「レントゲンを撮って・・・」などといっていたら間に合わなかった可能性もあるのです。

僕自身の経験としては、本当に緊張性気胸だったことがあります。心臓手術の麻酔導入直後で、レントゲンで確認する間もなくトロッカーチューブを挿入しました。そのまま、手術は実施・無事終了しました。原因は前日のCV、TDカテーテルの挿入によると思われました(挿入後のレントゲン写真では問題なかった例です)。

「呼吸管理をしている時の急なショックの原因は 1)気胸・・・・を疑え」という卒業後すぐ救命センターで働いていた時の「先輩の教え」を思い知らされた例でした。今回は、直接動脈圧モニターをしていなかったことも、すぐに原因がわからなかった要因でしょう。

本館の番外22も御覧ください。殆ど同じ失敗でした。

SPO2のトレンドは後日掲載予定


注1.この看護師は特に「片肺」とか「緊張性気胸」とかを意識していたわけではないようです。ただ、原則に戻ってチェックを進めることを考えたということでした。

注2. アサーションを「健全な自己主張」として(私からいうと)「メンタル」に扱っていることが多いのですが、こういうさりげない「仕事上の会話」が私たちが目標としているアサーションなのです。”good job”だったと思います。手術が終わった時に「君のおかげだ。助かった」と麻酔医が小さな声で感謝を表していました。この積み重ねが良い(強い)チームを作るのです。



0 件のコメント:

コメントを投稿