2015年12月14日月曜日

事始・別館 10 fly by mouth 口で飛ぶ

「口で飛ぶ」fly by mouth
~さまざまなコミュニケーション法~



しばらく前の「講座」で、現場でのコミュニケーション技法として、軍や航空から取り入れられた①SBARや②「無菌の操縦席ルール」を紹介したことがあります。中でも、航空界は、事故例の検討を「しゃぶりつくすようにやっている」(ある元機長)ので、「規則とすること」以外にも、事故の70%と言われる人間の要因を減らすために、さまざまな工夫をしています。私たちと共通することもあるし、なじまないこともあります。
そんな工夫をもう一つ紹介します。それは「口で飛ぶ」(fly by mouthというコミュニケーション技法(工夫)です。
(以下 概要を引用 太字意外は筆者の思いつき)


チーム環境で仕事をしている時は、自分の意思をはっきり声に出す習慣をつけている方がいい

 このことを航空界では“透明”なコミュニケーション(transparent communication)あるいは「口で飛ぶ」というそうです。そして、これは医療でも通じるのではないか?と思われます。

なぜ自分の意思を声に出した方が良いのか、ということには「4つの理由」があるようです。
1)(患者に対して):意識のある患者はこれから何をされるか、ということを前もって知りたい。

その方が安心?自分のためにも協力的になり、気持ちの準備をしてくれる。いきなり「ブチッ」とやられるよりもよほどよいでしょう。また「昨日、お話したようにね・・・」と言ってはじめるとより協力的になるでしょう。

2)(チーム環境の場合、チームに向けて):自分の意図を明らかにすることで、いつ、誰が、何をしようとしているのか、という状況把握を向上〈共有〉できる。

例えば手術場や集中治療室では、メンバーの各々が声をだし仕事をしていると、そのことで、お互いの状況・仕事の進捗などを知ることが出来ます。何かおこった時だけでなく、業務そのもののコ―デイネーション・微調整が可能になる。「おっ、○○があれをやっているなら、こちらも少しペースを速めようか」とか、うまくいかないときの準備は大丈夫か?と眼で○○が用意してあるか、などひそかに確認したり、考えたり・・・・でも、ここで大声を出したりするとかえってあせらせることになるね。ははは。
例:(OPCABで血行動態が不安定。手術操作を休んでも回復まで時間がかかっている・・・・)
(麻酔医)「血行動態の維持が難しいですねー」
(執刀医)「そうですね。じゃあオンポンプ(人工心肺を装着する)に変えますか?」「ポンプ用意して!」
この会話で、助手だけでなく、看護師、技師もバタバタと「ポンプ体制」になるかも。

逆も同じ(手術操作が終わって)
(技師)「じゃあ、ウィニング(すこしづつ人工心肺の補助を減らしていく)開始していきまーす」
(技師)「なんともないですか?(心臓が)張ってきませんか?いま、◎リットル(補助の流量)でーす」
 この会話で、執刀医は心臓の負荷を監視し、麻酔医は呼吸の補助を再開し、強心薬や血管拡張剤を調節していくし、外回りの看護師は輸血(類)の準備(加温など)を確かめる・・・と言う具合です。
(技師)「じゃあポンプ止めまーす。いいですか?」
(執刀医)「止めてください」
(技師)「はい、ストップしました」
で、このステップ修了。

3)他のメンバーが間違いに気づいて、未然に防ぐ機会になる

例: (ICUの中で)
(看護師A)「○○さんに、□□のために、 ▼を◎mg静注しまーす」
(看護師B)「えッ、何だって?もう一度言って!」「それ○□さんじゃないの?」
(看護師A)「だって、ここに書いてある・・・あっ!用紙がちがってた!」

4)熟練者である場合、「自動操縦」(考えなくとも、手が動いている状況。いわゆるスキルベース)で仕事をしていることがほとんどだ。しかし、その意図を声に出すことを習慣づけると、エラーを起こす行動を実際に行ってしまう前に、自ら気づく最期の機会が得られることになる:「一人指差呼称」も同じ効果⇒芳賀繁先生などが書かれたものを読んでください。


結局、ブツブツ独り言、のような感じなのですが、そのことで「一人指差呼称」的効果の他に、周囲とのゆるやかな「情報・状況認識の共有」や「(ゆるやかな)ダブルチェックの要請」「業務のコーデイネーション」が得られ、一連の行動を通じてリーダーシップを確立していることにもなるようです。

しかし、①SBAR②無菌の操縦席ルールや、この「fly by mouth」もあくまでも“スキル”の一つです。業務上のコミュニケーションの目的を“(チーム全体が)状況に関する効果的で、共通の理解に達すること”と、しっかり理解すること、そのためにどんな態度・振る舞いをすべきか、をいつも考えることが必要です。もちろんひとつの正解があるものではないのですが・・・。

最近、NTS(ノンテクニカルスキル)とか言って業務上の知識(テクニカルスキル)と別に教えると何かが出来る技術であるかのような傾向があるのですが、あくまでも業務上の知識の実践に伴って機能するもの、ということを忘れてはいけません。

Fly by mouthをみんなが大きな声ですると、騒がしい病院になるし、ブツブツやるのではあまり効果がないし(「独語」?)・・・・・

繰り返すことになりますが、チーム作業の場合に「状況」(現在している仕事や見通し)についての共通した認識をもてるようにいつも意識して行動する習慣をつける必要があるということです。それが安全に、効率よく、そして気持ちよく、仕事を終えるやり方だと思います(そして、その後、うまい酒を・・・ははは)。

l  “口で飛ぶ“については(故)内田モトキさんの航空推理小説のなかで易しく説明されていたのですが作品名を忘れました。どなたかご存知ないですか?

●(2023.1.追加です)元日本航空キャプテンの小林宏之さんによると、ダブルチェックの徹底なのだそうです。一人が口に出して、それをもう一人が確認する。それは「互いを信頼しなさい、でも互いに確認しなさい」ということだそうです。(医療VS他業種 安全文化10番勝負 丸善出版)そういえば「PILOT MONITORING」という言葉もあったな。


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