読書録 「サボタージュ・マニュアル」(北大路書房)その3 「手続き」が目標になる

 面白そうなところの「切り貼り」的紹介ですがもう少し・・・

しばらく前に「レジリエンス」ということが話題になっていることをお話しましたが、このマニュアルは、ちょうど逆の効果をねらっていることに気がつきます(敵に対してですからあたりまえですね)。
 以下の解説を読むと、私たちの病院組織も「アブナイ」と思うのです。畑村教授の組織の老化の別の表現のような気がします。



ロバート・キング・マートンの「官僚制の逆機能
 このことを的確に指摘したのは、アメリカの社会学者のロバート・キング・マートンです。彼はウエーバーと反対に、官僚制がもっている問題に焦点を当てました。
 
 彼はそれを「官僚性の逆機能」と呼んでいます。
 たとえば、形式的な手順はたしかに大きな組織を維持していくためには必要不可欠なものなのですが、組織の規模が大きくなつていったり、複雑になっていったりすると、それに伴って手順も複雑化して、その量も増えてくるという問題です。このようになってくると、もともとは「何かを効率的に行うための」手順だったにもかかわらず、それが逆に組織体の足を引っ張るものになってきます。
 RK・マートンは、その一例として「目標の転移」という現象をあげています。たとえば、「手順を的確に守る」ことは、大規模な組織を維持していくためにはたしかに必要かもしれませんが、それが次第に、自己目的化されてしまい、かえって能率を低下させるようになってしまっている状況です。
 役所の窓口などでよくみられる風景ですが、窓口の担当者が、l2分ちょっと手伝うだけでうまくいくような仕事でも、まず、正式な書式で記入した正式な申請書を提出し、それを係長が決裁したうえで、担当者を決定し、その担当者に文書で指示を出し、担当者はその仕事を行ったうえで、文書で報告書を出す。しかも、この申請の方法や報告書の書式がちょっと間違っていただけで、最初の段階まで差し戻されてやり直しになってしまうようなケースです。
 また、細かいことによく気づくのが得意な人が、いつの間にか、この書式をチェックしたり、手順が正しいかをいちいち確認する専門家として分化してきたりします。

 このように「目標が転移してしまった」状況の中では、もはや、組織が何をするためにつくられたものなのかという最終的な目標はあまり意識されなくなってしまい、組織の構成員は、手順を的確に守って作業することだけを重視するようになっていきます。むろんこのような組織では、効率的に目標の達成をすることはできなくなってしまいます。

 また、手順を形式的に守ることが徹底されてくると、人々は次第に、きちんとした手順で指示された要求をきちんと実施するが、それ以外のことはしない物体、まるでロボットのようになってきて、融通が利かなくなってきてしまいます。
 想定外のことがあっても、まず通常の手順に従って問題を解決しようとしますし、手順が定められていない場合には動けなくなってしまいます。
このような状態をRK・マートンは 「訓練された無能」と呼んでいます。これも組織が硬直化してしまう重要な要因です。

 さて、サボタージュ・マニュアルにもどりますが、なんとこのマニュアルにはRK・マートンがこの「官僚制の逆機能」の研究を発表する前に、それを先取りした指摘がすでに多数載せられています。
 たとえば、「何事をするにも『決められた手順』を踏んでしなければならないと主張せよ」 (5章▼11)とか、「すべての規則を隅々まで適用せよ」(5章▼H)などのルールはまさにマートンが指摘した「目標の転移」や「訓練された無能」を意図的に引き起こそうというものです。
 つまり、ある意味、時代の最先端を行く指摘をこの「サボタージュ・マニュアル」はしていたわけです。

*翻訳者は最後に、こう書いています。「我々は第2次世界大戦後、今日まで、当時の人から見ると夢のようなテクノロジーを開発し、それらは日常生活の中に浸透してきましたが、人間のふるまいやその集積である組織のふるまい自体はほとんどかわっていない・・・」と。

だから、この本はどう読むにしろ「現代的」なのだと思います。(28.3.院内LAN投稿)

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