事始・別館12  私説「アサーション」 ~危機を回避し、生き生き働く~

kiki


この数年、私の担当するIG部門でおこなった「アサーション研修」のその時々のメモをまとめたものです。リンクをつけた目次のようにして、院内LANで公開していました。


院内の掲示板からほぼそのまま転載しました。「リンク」がつながらないところもありますがご了承ください。



0-1  まず、今時点でのアション度をチェックしてみる

  

1-1   アサンって

1-2   アサーション権

1-3-1  アサーテイブな態度   非言語的なアサーション
 2ー1     アサーテイブになれないのは気持ちの問題ではない

3-1    アサーテイブな考え方
3-2    日ごろの考えとアサーション  1から5であらわすチェックリスト
3-3    こんなどうしいる?

4-2    アサーションだけでは片付かない conflict resolution

4-5   さて、ここでもう一度 0-1 アサーション度 をチェックしてみてはいかがですか

5. 参考

1  隣の会の研修「アサーテイブコミュニケーション」資料 一部ppt

2  「あなたのその一言が重大な事故やインシデントを防ぐ最後の手段になるかもしれない」

3  海上保安庁で実施している「CRMクリテイーク(振り返り)シ ート」の一部

4  アサーショントレーニングの基礎コース(平木さんの本から)

5  参考書など

6 アサーション/インクワイアリー(JASCRM行動指標集2001より)

  ・ その1 ・ その2

7 麻酔科―外科―ICU(レジデント、ナース、専門医)とパイロットの意識の差
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


0-1
まず、今の時点でのアサーション度をチェック はい か いいえ で


Ⅰ 自分から働きかける行動
1.    あなたは、誰かにいい感じを持ったとき、その気持を表現できますか?
2.    あなたは、自分の長所や、成し遂げたことを人に言うことが出来ますか?
3.    あなたは、自分が神経質になっていたり、緊張しているとき、それを受け入れることができますか?
4.    あなたは、見知らぬ人たちの会話の中に、気楽に入っていくことが出来ますか?
5.    あなたは、会話の場から立ち去ったり、別れを言ったりすることが出来ますか?
6.    あなたは、自分が知らないことやわからないことがあった時、そのことについて説明を求めることが出来ますか?
7.    あなたは、人に援助を求めることが出来ますか?
8.    あなたが人と異なった意見や感じをもっているとき、それを表現することが出来ますか?
9.    あなたは、自分が間違っているとき、それを認めることが出来ますか?
10.  あなたは、適切な批判を述べることが出来ますか?

Ⅱ 人に対応する行動
11.  人から誉められたとき、素直に対応できますか?
12.  あなたの行為を批判されたとき、うけこたえが出来ますか?
13.  あなたに対する不当な要求を拒むことができますか?
14.  長電話や長話のとき、あなたは自分から切る提案をすることが出来ますか?
15.  あなたの話を中断して話し出した人に、そのことを言えますか?
16.  あなたはパーテイや催し物への招待を、受けたり断ったりできますか?
17.  押し売りを断れますか?
18.  あなたが注文したとおりのもの(料理や洋服)が来なかったとき、そのことを言って交渉できますか?
19.  あなたに対する人の好意がわずらわしいとき、断ることが出来ますか?
20.  あなたが援助や助言を求められたとき、必要であれば断ることが出来ますか?


1-1
  「自分の考え、欲求、気持などを事実に正直に、その場の状況にあった適切な方法でのべること」(平木典子)
「相手にも配慮しながら自分の言いたいことはきちんと伝えること」(山内桂子)
1-1-2
 コミュニケーションにおける自己表現の三つのタイプ(→隣の会pptなど参照)
  ドッカン(攻撃的)
  オロロ(受身的) 
  アサーテイブ
それぞれの特徴
1-2
 アサーション権
  「誰でも自己表現をしてよいのだ」「自己表現はすべてに人に認められた権利だ」、という考えをもつ
    12の権利   ⇒隣の会pt参照
    医療の場合   ⇒文献Chenvert,M 

1-3-1
 アサーテイブな態度 

1-3-2
 自分はどんな場面でも言いたいことが言える、と思っている人の中にはひょっとするとアサーテイブというより攻撃的なコミュニケーションをしている可能性があります。(わたしOK)「あなたOK」という態度で相手の気持ちを尊重しているかどうかを内省することも必要です(山内桂子さん)

1-4

 ・「アサーション権」と「役割に付随した権利」を混同しないこと(平木典子さん)
 
  役割に伴った権利:公式、非公式の約束、契約にもとづくもの。
            地位、役割、資格、責任、技量
「アサーション」=「口を出す」のはいいが、「誰でも」の範囲が難しい。仕事上であれば、ある程度以上のメンバーだけに許されることもある。関係者ならそれ以下でもいいが(例えば患者―医者)。まったく関係のない素人から一々「意見だとか」「質問だとか」があると仕事にならない。
役割にともなった権利(権限)を持つ人は同時に結果責任も問われる。最後はリーダーの決断、ということ。どんな社会でも同じ。 

  「アサーテイブ権」は自分だけにあるのでなく、相手にもあるということを意外と忘れがちだ。あなたが主張するのはいいが、相手にも拒否する権利がある。

全体への教育・理解が最初に必要:「アサーション」が流行り始めのころ、「講習」にいった看護師がみな「生意気になった」と婦長が感じたそうだ。「習って」すぐにやりだした連中も悪かったのだろうと思うが、そんなこととは知らない婦長は、それをつぶしだしたそうだ。みんなで一斉に習い、始めるのがいいらしい。手先の「スキル」じゃなく考え方が大事だ。

  HFの理解はあったほうがいい:人の知覚―判断―行動に与えるいろんな要因のかかわり、人と人のかかわり、人間の限界などの知識がないと、アサーション⇒自分が気持よくなる、だけで「終わり」。我々がコミュニケーションを考えるのは、業務を気持ちよく、効率よく、安全に、できるようになるためだ。アサーションだってその手段の一つ。

  アサーションスキルと聞く耳スキルは一対、「聴くというアサーション」がある。:
相手の訴えたい気持、言いたいことをきちんと聴くという態度は、受身的な行為ではなく、機能的、積極的な行為である。話したいのに上手く話せない人、非主張的な人にとっては相手の話したことを聴こうとする態度はとても有効。急がせず、割り込んだりせず・・・「聴く」こともアサーションということ。

  Be assertive!そしてGroup climategroup climateというのはチームの雰囲気をつくる、ということ。何でも(しかし節度を持って)口に出すことができる文化・・・・メンバーが発言しやすい雰囲気をつくる。しかし発言出来ないメンバーもいることを知ること

  コミュニケーションは難しい、ということを共通の認識(気づき)とすること」が一歩か?

2-1
アサーテイブになれない理由は「気持の問題」だけではない

  ・ 知識・技量がない:仕事であればこれが大きい
  ・ 何を言いたいのか、自分自身気持が把握できていない
  結果や周囲を気にしすぎる つたわるかどうか?より自分の気持を表現できるかどうかと言うことが大事らしい
  基本的人権
  考え方がアサーテイブでない
  アサーションのスキルを習得していない
  体が語るアサーション 態度行動
  タイミング、機会を逸してしまった!
    
  他にも影響をあたえそうな要因がありそう 例えば、集団心理の影響、凝縮性の高い集団、成功体験の多い集団(我々に間違いはない、負けることなんてない)、みなの意見が一つになることが良いことだ ⇔「批判的にリーダーに協力していく」という本来のフォロワーシップにも関係してくる?

2-1-2
  (3回のアサーション研修後のアンケートのまとめ)

問:あなたは、上司や先輩(時に同僚や後輩)の意見や行動が間違っていると思ったり、疑問に思ったとき、それを表していますか?

「言える」「言った」「いつも指摘できる」と回答された方はごくわずかでした。ほとんどの方は、誰かのエラーに気がついても、あるいは疑問を持ってもそれを指摘・質問することはできない、できなかった、という経験を持っていました。

《原因別に分類してみると 多い順》

  立場に対する過度の配慮
  権威勾配
  人間関係を配慮
  「指摘」する知識への自信のなさ
  知らなかった?
  「自分の業務外」という判断(私は関係ない?)
  自分で納得
  抑圧



《権威勾配》《立場に対する配慮》

 (1)「先輩・上司には言いにくい」:看護師の場合、(ライン外の?)医師や技師には比較的「言える」ようでしたが、直属の上司や先輩にはかえって発言を控えているような傾向が見られました。外の関係よりも内部の方が発言に遠慮があるようです
「医師だから」というのはないとはいえないのですが、それ以上に「ラインの上」である部門の管理職にたいして遠慮しがちなことがわかりました。

 (2)医師対医師の場合「専門性(科)への過剰な配慮」とでもいうようなことを指摘する考えもありました。(かなり??と思っても)「○○科の医師がそういうのだから」と遠慮してしまう、というのです。
《その後の人間関係を重視》

 指摘する事実そのものよりも「相手の反応が心配だ」「悪く思われたくない」「嫌われたくない」という感覚が意見の表明行動を抑制しているようです。
これは上司に対する場合にもありますが、「同世代に指摘できない」おもな原因になっているようです。
《自分の知識への自信のなさ、相手への過信》

 「自信がなかった」「何か別の考えがあるのだろう」「きっと大したことないのだろう(と自分で自分の疑問を打ち消す)」というのは、
「安全についての素朴な疑問を口に出せない」組織の雰囲気の逆の表現かもしれません。
「指摘したが(自分のほうがあきらかに)間違っていた」などという経験がこのような消極的な態度になっている可能性があります。
また「自信がなくて言えない」原因は教育システムに問題がある、という他にメンバー間での情報の共有化が不十分な場合もあります。
《知らなかった》

 「知らなかった」とアンケートにありました。個人の問題もありますが(個人間、組織間での)「情報の共有」ができていないことが問題になります。それと利用可能性(アクセスのしやすさ)も問題になります。
《自分の仕事じゃない》

 「自分の仕事はここまで」と業務のテリトリーを(勝手に)狭めてしまっているか、「他人の仕事」に無関心になっていることがうかがわれました。
「組織の老化」の一面といえます。
《環境、組織の雰囲気》

 環境、雰囲気、「話せる環境でない」
《多忙感》

 「後で指摘しようと思いながら多忙でつい忘れた」というような内容の回答がいくつかありました。
多忙は事実なのでしょうが、自分で「(指摘を)急がないという判断」「緊急性・重篤性を認識できなかった」という可能性もあります。
また、「指摘」する場合は「(できるだけ)すみやかに」「単純・明快に」、が不要なコンフリクトを予防することになります。
《抑圧》

(ちょっと疑問は表明したが)「上の人がいいからといった」(疑問を抑えられた)
(質問はしたが)自分が納得できる答えでなかった。

 予想されたとおり(一見明るく、わいわいと何でも話し合っている、かのように見える当院でも)「いざ」というときに、エラーの指摘や疑問、違った意見をあらわすことが実は大変であることがわかりました。
 ――――――――――――――――――――――――――――――――――
 アサーショントレーニングはたぶん有効なのでしょうが、スキルだけと考えると「突破」は無理。しかし、スキルもあったほうが良い。「スキル」を学ぶプロセスがだいじなのかもしれない。

3-1
3-2
日ごろの考えとアサーション  1から5であらわすチェックリスト(平木典子)

1.     自分のすることは、誰にも認められなければならない
2.     人は常に有能で、適正があり、業績をあげなければならない
3.     人の行いを改めさせるには、かなりの時間とエネルギーを費やさなければならない
4.     人を傷つけるのは非常に悪いことだ
5.     危険や害がありそうなときは、深刻に心配するものだ
6.     人は誰からも好かれなくてはならない
7.     どんな仕事でもやるからには十分に、完全にやらなくてはならない
8.     人が失敗したり、おろかなことをしたときには、頭にくるのは当然だ
9.     人が間違いや悪いことをしたら、非難すべきだ
10.  危険がぉこりそうなとき、心配すれば、それを避けたり、被害を軽くしたりできる。



3-3

アサーション度 Ⅱ 
A(ぜんぜんしない)からE(ほとんどいつでも、間違いなくする)までのレベル

1.     人が不当なことをしたとき、それを言いますか
2.     並んでいるところに割り込まれたら、それを言いますか
3.     ものごとの決断をするのが難しいと思いますか
4.     興奮しやすいほうですか
5.     話し合いの席で、意見を言いますか
6.     デパートで自分の後ろからきた人に先を越されてサービスされたとき、店員にそのことを言いますか
7.     あなたからお金を借りた人が返却日になっても返さなかったとき、請求しますか
8.     議論をしていて、自分の意見が認められなかったとき、それでも自説を言いつづけますか
9.     社交的な場面で、「壁の花」になりがちですか
10.  他の人の決定や選択に入り込んで、代わりにしてあげることがありますか
11.  愛情を相手にオープンに示すことが出来ますか
12.  友人に助けを求めたり、ちょっとした頼みごとをしますか
13.  自分の考えに間違いないといつも思いますか
14.  あなたの尊敬する人と意見が違ったとき、自分の意見を言いますか
15.  人を誉めるとき、困難を感じますか
16.  他の人が言葉に詰まったとき、あなたが代わりに言ってあげますか
17.  自分の思いを遂げるために、他人に大声で命令したり、怒鳴ったりしますか
18.  家族で食事をしているとき、会話を独占しますか
19.  初対面の人にあった時、自分のほうから声をかけますか
20.  人前やいろいろな場にでていくことが億劫ですか


「良くありそうな例」ということです。
何かが正解じゃなくて、こんなときどうしよう、こういう時のアサーテイブな言い方、振る舞いってどんなんだろう、と考える例です。なかなかできないのですが、具体的に考えてみるとよいのです。



JAXACRMから:JAXAというのは宇宙開発事業団 引用したのは航空会社に共通したNTS(CRM)をまとめたレポート。コミュニケーションなどが詳しく書かれている。そのなかでコミュニケーションの3要素の一つがアサーション
 80年代からチームのトレーニングとしてコミュニケーションを取り上げてきたのが航空界。TRMteam resource management)またはNTS(non technical skill)の要素としてもアサーションを重視している。

4-1
コミュニケーションには3つの大きな要素がある (図はJAXA CRM指標を参照)



1.    2 way communication 情報の伝達と確認」(←オウム返しとか単なる復唱でなく、このように意訳する)
1) 情報は省略せずに正確に伝える
2) 情報があいてに正しく伝わっているかを確認する
3) 標準的な用語を用いる
4) 情報は大きな声で、はっきりと、適切な速さで伝える
5) 情報はタイミングよく伝える
6) ボデイランゲージは誤解されないように使う
7) 相手の話を積極的に聴くこと
8) 情報の確認
2.    ブリーフィング(これも病院などではとっても大事なのですが、長くなるのでまたこんど。 略 )
3.    アサーション 「安全への主張」 以下の3段階のレベルに分けてassertivenessという概念があり1)から3)の順に主張を強める
1) 疑問に思ったことは、躊躇せず口に出すこと(inquiryからはじめよう)
2) 自分の考え、意見を率直に伝えること(advocacy)
3) 危険であると感じたときは自己主張の程度を強める(assertion)

4) 意思の表明を受けた場合は、その人の疑問、意見、アドバイス、質問に積極的に応えること 
(1)   初歩的な質問を馬鹿にしない 
(2)   意見、アドバイス、質問に対して傾聴する 
(3)   間違ったアドバイスをされても、まずは「ありがとう」という 
(4)   なぜそう考えたのかを逆に質問してみる 
(5)   質問に応える時間がないときには「後で詳しく説明する」と一言付け加える
(6)   「指摘」はリソース、と考える。この対応をおかしくするともう二度と協力がえられないかもしれない

5) 主張する側にも求められる態度がある。節度とかタイミング(早い時期に率直に)がもっとも大事

6) 主張(指摘)できるバックボーンを養う。バックボーンとは知識・技術、経験のこと

7) おかしいと思ったら必ず確認をする
1.相手の行動、発言に疑問を生じた時
2.自分の知識、行動に不安を感じた時
3.わかりきったことも

4-2

※コミュニケーションに付随・関連するスキルのなかに「意見相違の解決スキルconflict resolutionと言う考え方がある。そこにはこうある。
「チーム内に意見の相違が生じたとき、その理由をはっきりさせ、真の原因を見つけ出し、解決するためのスキルである。意見の対立は忙しいとき、時間の切迫しているときに起こりやすい。また、おのおのが真剣に考えているからこそ起きる対立ともいえる。どのようなクリテイカルな場面でも、常に開放的なコミュニケーションを保ち、「誰が正しいか、でなく、何が正しいか」に焦点を当てる。そうすると、意見の対立が建設的なコンフリクトになる」

そこでは  (1) 意見の相違を感情の対立に発展させないこと 
2)「誰が正しいか」でなく「何が正しいか」を念頭に集めた情報分析
3)自分の主張を変えるときは、客観的に分析した上で行う
   ということである。
コンフリクトを建設的に解決したときチームはさらに強化される、という。


「とっかかり」といいうのは方言かもしれませんが・・
 「なぜアサーションを?」とたずねられた時どのように答えますか?
 「健全な主張が必要だ」とか「いいたいことをいったほうが良い」と答えることでこころから納得するでしょうか?
 やはり、「とっかかり」が必要だと思うのです。


1)なぜアサーションが航空の(あるいは地上でも)チームトレーニングに必須の教育として取り入れられているのか?ということを考えた方が、アサーションを「健全な自己主張」とか「アサーション権」とかいうよりも意味がはっきりする。かれらはアサーションを「安全への主張」と明確に「翻訳」までしているのだから。
たとえば、今の職場で突然「アサーション」とか「自己主張」とかを、いきなり言いだしても、「それなに?」「何でー?」とならないだろうか?

たとえば、こんな「トッカカリ」を作るのはどうか?
「あーあ、あの時「ひとこと」言えていれば・・・という経験はありませんか?」
 その結果
コミュニケーションの失敗で危険なことがおきている。
仕事がうまくいかない。
その後、なんとなくお互いに疑心暗鬼になってしまった

⇒安全のために⇒質の良い仕事のために⇒気持ちよい仕事、人間関係のために⇒・・・・コミュニケーションを大切にしよう?(その中の・・・)と入ったほうが入りやすそうな気がする。

  要するにどんな分野の事故でも、分析するとコミュニケーションに関することが70%を超えている。さらに一つ一つの分析をしてみると「アサーテイブ」な行動が出来れば防ぐことが出来たであろう事故が多い(大きい)ということ(もちろん事故になる前のインシデントも)だ。
   
2)(仮にアサーションを知識として理解したとして)「自分がアサーテイブになれなかった経験はないですか?もっとこう表現すればよかった、という経験はないですか?」と問う。どんな経験か話してもらう・・・・これを小さなグループですることで、理解が深まる。

4-3-2

★よく引用されるのはこんな事故だ
テネリフェの事故の要因といわれていること:コミュニケーション、権威勾配、タイムプレッシャー、用語、・・・とあるが 「もうすこしアサーテイブであったら」ということが大きい
・飛行機がガス欠:これも同じ。気が付いていたコーパイは機長にいろいろいった。しかし、肝腎の「燃料がない」と実感させることができなかった(コーパイの主張が明瞭でなかったために、「燃料が減っている」とは思っても「もうない」とは理解しなかった。機長がネイテブでなかったことも考慮できず同じ発言を繰り返していた。管制官に対しても「緊急」をコールするという「提案」もしなかった)。その結果、滑走路を前にして墜落。
横浜市大の患者取り違え事故:どうも前日見た患者と違う、情報が違う、剃毛の場所が違う、といった情報とそれへの懸念は複数の人が持っていた。が、誰もはっきりと口にださなかった。「違った事実」は都合よく解説された(story telling)。そして、そのまま事態は進行。終わってずっとしてから面会にいった元の主治医が気付いた。もちろんこれには患者確認の方法や他の要因(リーダーシップなど)もあるが・・・

 大事なのは「アサーション」だけでないと言うこと。あくまでも良質のコミュニケーションを実現していくための手段の一つ、思考法、態度の一つであるということ。

また、事故に関しては先輩が言っていたのだが、一つの典型的な事故(例えば横浜市大の事故)をきちんと分析していくことで殆どの事故を発生する要因を抽出することができる、という。「●● 病院の事故は○○が原因」と単純化してはいけない。

追記私は、横浜市大の事故は単なる確認方法やアサーションの問題とは考えていません。極端な言い方をすると、医療のやり方が、ベルトコンベアにのり(乗せた)流れてきた患者を自動的に処置する、という発想にになっている、させられていることが一番の要因だと思っています。そこでは人間の思考力は逆に邪魔にされている・・・・ということだと。これに対して「やらないよりは良いだろう」とバーコードをつけたりするのも、新たな事故のもとではないかと思われます。

4-3-3

アサーテイブになれない理由も当院でのアンケート(私が実施)と航空や他の分野での結果と共通することが結構多い。科によっても違うことがBMJにでている(あとからする)。

アサーション一つを教育してそれがうまくいくか?というと、もっと背景にある「文化」とかの問題が大きいのだ。だからスキルという言い方をしているが組織文化の影響が大きいし、全体の思考の変革から必要、ということだ。バラバラ、個々の事をブツブツにやっても効果が薄い。かえってストレスフルになるんじゃないかと思っている。

(こんなことかも・・・ あるところに書いた文章の一部)
組織(意識)の「隙間」を広げないために

 困ったときにだけ「意識の隙間を作らないように」と指導してもそんなことはできません。日常的に組織(チーム)として境界領域の重なりをあえて作っておくことも必要です。そのために
1. 「自分たちの専門枠と意識している分野」の少し外側の知識をもつ、関心をもつ。
2.     人間関係の範囲を「直角上下」の仲間内から「斜め上下」の自分たちを取り巻く分野の人たちとの関係をつくる→人間関係のインフラの整備・拡大?
3.     タイミングよく「下」が「上」に、「他分野のひと」が「専門家」にエラーの指摘や懸念を表現すること(自分の思いを表すこと)は困難なこと、を知る(アサーショントレーニングなど)
4.     自分の仕事の「一つ上のミッション」をいつも考えること
 こういう努力をつづけると「情報(知識・経験)と状況認識の共有」(コミュニケーション)という安全文化の基礎をつくることができるような気がします。

※「業務に線」を引きたがる人が多い。責任(とか遠慮?)の問題もあるのだが「法的な責任」と「仕事の責任」」は違う。あまり太い「線」を引くと「線」のむこうが見えず仕事がギクシャクするばかりでなく「線」の上に誰もいなくなる。
4-4
 結局、アサーションと言うのは、 (とりあえず、私のまとめ

オープンなコミュニケーションを実現する手段のひとつ。
直接には、相手に配慮しながらも、しかし自分の意見を率直に述べること
医療ではそれがチームの安全を確保し、よりパフォーマンスを高めることにつながる。
誰もがアサーテイブに主張する権利がある。しない権利もある。
相手にも同じ権利があり、拒否する権利もある(これが重要)ことを理解
アサーションは「早い時期に(タイミングよく)」「節度を持って」主張すること

受け止める側にもアサーテイブネスが必要
言われた側は、安全に関することには必ず耳を傾ける。初歩的な質問でもバカにしない。
決定は意見・情報をふまえリーダーが行う

言われた方は、誰にいわれたかでなく、何を言われたか、と考える
誰が正しいかでなく何が正しいか、と考える
意見の対立を感情の対立にしない

アサーションを妨げている一番の原因は情報(知識、認識)の不足である
個人としては情報・知識の向上につとめる。プロとして一人前になる。頭は「より創造的」なことに使う。
組織としては情報・知識の共有・アクセスしやすさを作ることにつとめる。


アサーションのためのスキル例
 Iメッセージ:「私(I)は○○と思います」と主語を私にして伝える。「あなたは間違っている」でなく「私はこう思う」と言う言い方。「私」ということで自分の責任も明瞭になり、「わたし」ということで「逃げない自分」を意識することにもなりそうだ。
  言われる側としても、主語をはっきりさせないで「○○という話もありますけど・・」「いつもこうやってますけど・・・」と自分の意見なのに「私」という主語を入れない。にもかかわらず「強い主張」は不快なだけだ。
「私」をいれないことで「責任」(と言うほどでもないが)を最初から回避してる。反対に、たとえ間違っていても「私は」という主語をいれてくれると、その「私」との対話になるので率直な気持のいいものになりやすい。
SBAR:これは前に書いた CP(注 院内誌)で不採用の文章を見て!
SBARは勝手な解釈かもしれないが最後のRがポイントのような気がする。「R」によって当直医は覚醒し、状況をつかもうとし、報告者の思いを共有できそうだ。山内先生は「最初の一言」「一発」といっていたような気がする。しばらく前に読んだSBARの紹介サイトにも「目を覚まさせる一言」のような意味が書いてあった。
       
注 RRTrapid response team  or rapid response system)に報告の信頼性について書いてある。やはり、いつもいつも「オオカミ少年」はダメ、かえって信頼を損なう。


CUS :自分が危険を感じているときに、懸念を表現する言い方(特に患者の安全が脅かされていると感じたら)まず①のように伝え、それでも相手が行動を変えなければ②,③と重ねて伝える(この辺はJAXAのアサーションと同じか?)。
    私は気がかりです    Concerned
    私は不安です           Uncomfortable
    これは安全の問題です   Safety issue
      例えば薬剤師の疑義紹介例が載っている。(山内先生の本)
薬:「○○サンの抗生剤が▲mgとなっていて通常量より多いので気がかりです」
医:「あっ、それ大丈夫だから、処方通りに出しておいて」
薬:「このまま調剤するのは心配です。患者さんの安全にかかわる問題ですので再確認をお願いします」

自分の懸念と安全の問題であることを明確に伝える。ただ、大事なのはこれは「(チーム)エラーの指摘」であると同時に相互支援のスキルであるということ。やはり、職種が違ってもチームとして仕事をしているという意識が必要だ(緊急時にあつまったような「にわかチーム」でも同じ)。「チーム意識」を自分が今思い浮かべているものよりも一つ外側へと広げることができれば流れがスムーズになると思う。

 DESCdescribe(状況や相手の行動を客観的に表す)
 express(自分の主観的な気持ちを説明する)
 specify(具体的で現実的な提案をする)
 choose(相手からの否定的、肯定的な返答に対してどう行動するか選択)

 Two challenge rule:一度断られても、もう一度言ってみる(目覚まし時計だって2回くらい鳴る)

 非言語的なアサーション要因

「アサーション」は言語だけでない。コミュニケーションの成否に影響する「非言語的要素」の割合が大きいのと同様。
   視覚的:視線、表情、動作、距離、姿勢、接触、服装
 聴覚的:声の大きさ、流暢さ、速度、調子、明確さ、反応のタイミング
 上にあげた「動作」と言語的アサーション(言葉で言うこと)を組み合わせて考えてみると想像ができる。メラビアンの法則?と同じだ。

参考-1:
――――――――――――――――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――――――――――――――――

参考-2:
 以下は昔あるところで書いたもの
 ・・・・・・・・・・
(アサーションの説明 中略)
 ・・・・・・・・・・
あなたのその一言が重大な事故やインシデントを防ぐ最後の手段になるかもしれません。
そしてその積み重ねがやがてわたしたちの病院を「安全な組織」へと変えていくのです。
*          *           *
 やっとの思いで、先輩や上司にエラーの指摘をしたら「おっ、そうか、気がついてるなら早く言ってくれるといいのに」なんて関係が続くとチームのパフォーマンスは上がって行くに違いありませんね。
 また「いくら言ってもダメ」な場合だってもちろんありますね。これはやはりもう一言だけあきらめずに「言ってみる(おく)」事が必要かもしれません。上司や先輩も見栄がありその場では「にべもなく否定」されてしまう事が多いかもしれません。しかし、「気がつくきっかけ」にはなり得ます。後でこっそり自分でなおすことを期待するということになります。(まあ、「外化」というか「ウルサイ!と蹴飛ばされてしまう目覚まし時計」みたいな効果ですね。でも、はっきりいって、「怒られるのも給料のうち」とも思いますが、放り投げて帰りたくなってしまうこともあります。言われる方も「うるさいな、この野郎、今やろうと思ってたんだよ」と思っているかもしれませんね)
 もっとひどいのは「どうせ言ってもだめ」な場合。黙って、バックアップの準備をする必要があります(「転ばないように対策を考える」のでなく「転んだときに怪我が軽くすむようにゴムマットをひいておく」「傷の手当の準備をする」みたいなことです)。「事象の連鎖」は自分のところがだめでも、どこかで断ち切る必要があります。(でも、こういう体制をいつまでも放っておくと「どうせ言っても」「言わない」「何も感じない・考えない」となりReason教授の言う「意識の腐敗」となってしまいます。)でも、あんまり露骨にやると怒られそうですね・・・。また「時が解決する(定年?移動?)」のを待つ、こともありますが、場合によっては長くかかりそうだなー。この行、冗談です。
 あっ、これば僕の経験ではないですよ。念のため

 とにかく、(ベテランの)人がやっているからといって無関心(おまかせ)でいないこと、と「自分が思っていること」と違ったら(自分の知識の確認にもなることですし)日常的に「ちょっと口に出してみる」こと位から始めましょうかね。




参考3
海上保安庁航空で実施しているコミュニケーションにおける「CRMクリテイーク(振り返り)シート」の一部。(航空運航システム研究会会誌 
Check list
check
Memo
項目 コミュニケーション
2 way communication情報の伝達と確認
 誤解するような言葉はなかったか


 「あれ」や「それ」や省略した言葉はなかったか


 聞こえにくいICSや意味不明なICSはなかったか


 Voiceに割り込みやタイミングを失したことはなかったか


Assertion安全への主張
 疑問に思ったことを躊躇せず口に出せたか


 自分の考え、意見を率直に述べることが出来たか


 主張をうけたものは積極的にこたえることが出来たか


Briefing意見交換の場
 時 に応じて実施したか


Briefingの理解し疑問の解消を実施したか


Briefing具体的であったか


Briefingに極的に参加したか


その他コミュニケーションに関する事項

ICS
(Inter Comunication
System)
機内通話装置。航空機内や地上にいる整備員などと通話が
出来る装置。C-1などには、PAと言う機内アナウンスの装置もあります。(航空管制用語集)

参考-4:アサーショントレーニングの基礎コース(平木さんの本から)
a.   理論編
  アサーション理論―アサーションとは
  自己信頼とアサーション権
  考え方のアサーション
  言語レベルのアサーション
  非言語レベルのアサーション
b.   実習編 :ロールプレイ 各自が難しいと考えている場面を選び、他のメンバーに相手をしてもらいながら試行錯誤していく
  苦手な自己表現の場面
  改善したい自己表現 

参考-5:参考書など
・ アサーショントレーニング 平木典子 1993
  医療安全とコミュニケーション 山内桂子 2011
  JAXA CRM指標のまとめ  飯島朋子ら 2003
  海上保安庁CRM振り返りチェックリスト (私信2010
  JASCRMトレーニングビデオ「アサーション」2001
  JASCRM行動指標集 日本エアシステム路線訓練部7 2001

参考-6:アサーション/インクワイアリー (JASCRM行動指標集2001より)
 
 

参考-7:麻酔科―外科―ICU(レジデント、ナース、専門医)とパイロットの意識の差
   4-3-3で紹介しているBMJの図を参照


























参考-8:「安全文化とは管理者や経営者に、悪い知らせを聞かせることが出来る文化である」「安全文化とは、ボスが悪いニュースを聞いてくれる文化である」(S.デッカー「ヒューマンエラーを理解する」)

0 件のコメント:

コメントを投稿