事始・別館13 レーダーコンタクトとリストバンド

コンピューターを信じすぎるのも・・・・



「アレッ、ここ何処?」

航空機は大抵いくつかの管制区域を通過して、目的地に着陸する。管制区のレーダーにキャッチされることをレーダーコンタクトという。キャッチされた航空機は管制の指示のもと、方向や高度、速度を変え、フライトプランとは別のショートカットを誘導されることがある。そして次々管制区にバトンタッチされ目的地に到達する。現代の最も効率的で安全な航空管制システムだ。ところが、最初のレーダーコンタクトで、行き先を間違って入力されるとどうなるか?という例がある。


アメリカ大陸からヨーロッパ(ベルギー)に向かってきた航空機が、最初にコンタクトしたのがアイルランドのシャノンコントロールという管制。そこで行き先を間違って入力されてしまったらしい。乗員は管制の指示に従い、いくつかの管制区を経由して、「管制に見守られ」安全に何事もなく「目的地?」に達した。乗員はそこで初めて地上を見た。「アレッ、ここ何処?」いつもと景色が違う。仕方がないので着陸したらドイツのフランクフルト。本当の話だ。(「機長からのアナウンス2」内田モトキ)

入力間違いをしたアイルランドの管制はその時、とても混んでいて、同じ航空路でフランクフルト行きがその直後に通過することになっていた。乗員も、渡された次の管制区も一度も確かめなかった、ということらしい。
しかし、大西洋をわたってきて、レーダーコンタクトをうけ、少し安堵し、その後は管制の指示に頼りきる、などということはありうるのではないか?ところが「コンピュータは間違わない」のだから、次々と進んでしまう。「いやちょっと」などと、何も起きていないのに確かめることなどしないことはあり得る。

この話にはさらにオチがある。お客さんやCAは客席の位置情報で違うところに向かっているのを知っていたのだ。かれらは彼らでハイジャックかなにかだろう、と解釈しおとなしくしていた。

リストバンド?

こんな話をだしたのは病院のバーコード管理(例 リストバンド)を思い浮かべたからだ。コンピュータ入力を最初に間違えたらそれをひっくり返すのは難しい。毎回毎回本人と指示にある投薬の適否など確認するだろうか?患者とあっているか?という確認じゃなく「バーコード」同士の一致を確認するだけになるのではないか?「何と何を照合」しているのか?
実際にバーコードが早期に導入された病院で、輸液のダブルチェックする看護婦さんを見ていたら、患者の方など一回も見ずに、ベッドに「ピッ」、点滴のシールに「ピッ」で通り過ぎていったな。
医事課と在庫管理にはいいんだろうけど・・と思っていたら、コンピューターと(ものの)実数があわなくて、それを再度記録(紙)を集めて照合したり・・と、とっても効率的(苦笑 当院の出来事)。
こんなことも、決まって「みんながきちっとやれば」という「反省」にしかならない。linearな単純作業を前提にした理屈だ。これでは、「古い安全管理」safety 1 以下だ。「複雑・変動系」(造語?)である医療ではそう簡単にいくのだろうか?WAI WADの違いも考えなくてはね。

コンピューターはミスを許さない


我々が向かい合うのは、「○×▼・・・・・・012」と言う番号がつき、さらにICD10(病名分類)でいう「記号」がいくつかついた「修理対象物」がベルトコンベアで流れてくる、のとはちょっと違うはずだよね。なんでもコンピューターにすればよいとは思われない。人は人、コンピュータが強いところはもちろんあるのだから、すみ分け(インターフェースも)をうまくしなければより混乱すると思うのだが・・・

仕事の真ん中にコンピューター(機械)が入ってくると、エラーやトラブルの表われ方も、人間だけの仕事、補助的に機械を使っていた時とは違ってくることも意識しておかねばならない。コンピューターは人間のミスをゆるさないのだ。「自分(コンピューター)」のエラーは「○○エラー」と表示しておしまいだけど・・・・

悪口を言えば、機械に合わせた仕事の仕方が要求されてしまっている。いやいや、あくまでhuman centered人間中心の発想でなければならない。


参考になるサイト

hufacのサイト 患者取り違え バーコードをつけたら安心?
youtube 消えた飛行機 フライトプランの入力ミス+自動操縦 ⇒「ここどこ?」
       確証バイアスなど エラーの連鎖が・・・とても参考になります
最初の内田モトキ氏のエッセイですがこの事件(事故)について違う記載もありました。http://www5c.biglobe.ne.jp/~yasha/nw52bru.htm

追記です。
Qantas 737がiPadへの入力ミスで離陸時に”tailstrike”
https://arstechnica.co.uk/gadgets/2015/11/qantas-737-tailstrike-was-caused-by-ipad-data-entry-fail/

リストバンドは横浜市立大学病院の事故後導入されたのだろうけども、あの事件のとらえ方が一面的すぎる。HF的にいうと間違っている。「取り違いに気づいたのが、その日患者さんと接した四十数人目のもと主治医だったのは何故か?」ということだ。ほとんどの報告書はこれを見逃している、というか無視している。外部からあの事故のHF分析をした組織の責任者にも話したことがある。彼は「そんな風には考えてもみなかった」と率直に認めてくれた。hufacのサイトが唯一気づいていたようだ。大きな事故のHF分析はいくつあってもよいと思う。警察や検察の調書とは違って責任追及、犯人(最後にスイッチをおした?)追及ではないのだから・・・・しかし教訓の画一化もよくないと思っている。「機長の危機管理」のK元機長は「教訓はしゃぶりつくさなければならない」と。








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