読書録「サボタージュ・マニュアル」(北大路書房) その2 コミュニケーションを阻害せよ


 構成は以下のようになっています。このあとに、翻訳された「ホンモノ」が続きます。
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日本語版の発刊に寄せて…‥……………
1 サボタージュ・マニュアルとは何か 
   ■OSSとは何か 
   ■OSSとサボタージュ・マニュアル 
  一サボタージュ・マニュアルとは何か 
  一なぜ、いまサボタ上ソユ・マニュアルなのか 
2 どのようにすれば、組織はうまくいかなくなるのか
 ■ホワイトカラーむけサボタージュ戦略 
 ■形式的な手順を過度に重視せよ 
 ■マックス・ウエーバーの「官僚制」概念 
 ■ロバート・キング・マートンの「官僚制の逆機能」 
 ■ともかく文書で伝達せよ 
 ■…そして文書を間違えよ 
 ■会議を開き、議論して決定させよ 
 ■なぜ集まると集団のパフォーマンスが低下してしまうのか 
 ■集団は個人の能力を封じ込める 
■スペースシャトル墜落の原因も「会議」 
■行動するな、徹底的に議論せよ 
コミュニケーションを阻害せよ 
■組織の危機自体がコミュニケーションの阻害を招く
■組織内にコンフリクトをつくり出せ
■集団維持機能をおろそかにする 
■組織の注意を組織の外側に向けるな
■「黒い羊」効果を生じさせよ 
■士気をくじけ! 
■サボタージュ・マニュアルの現代的な意義
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ホンモノは、6070年前ですから、少し古臭いところがあるのですが、前半の社会心理学的な解説を読んだ後に,ちらちら読んで、現代の設定、わが組織に設定を置き換えて想像してみるとよいと思います。「無意識のサボタージュ」にきっと気がつきます。

上の目次のなかに「コミュニケーションを阻害せよ」とありますが、この部分を引用して紹介します。
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コミュニケーションを阻害せよ
 多数の集団メンバーが一つの目標に向かって活動する場合、コミュニケーションは血液のような役割を果たします。情報を円滑に伝達していくことは、組織をまとめていくためにも方向づけていくためにも欠くことができない要素です。そのため、この血液の流れを阻害するような工作をしていくことは、サボタージュのための重要な戦略の一つとなります。
 コミュニケーションの阻害に関して、このマニュアルでおもに重視されているのは意図的な「誤解」「理解できないふり」、そして「大切なことを伝達しない」という方法です。

 「指示を『誤解』せよ。その指示をめぐって、切りのない質問を投げかけよ、あるいは長ったらしい返信を送れ」(5章▼H)、「指示を理解するのがむずかしいと偽り、何回もくり返すように尋ねろ。あるいは、その仕事をするのが特に不安であると装い、不要な質問で主任を困らせよ」(5章▼Hなどのルールです。

 現代社会の組織においてはこれに加えて、そもそも自由な発言を阻害するよう環境を設定ることも有効かもしれません。先にも述べたように、組織のイノベーションは、どちらかといえば、少数派のメンバーから生み出されるものですので、これを封じ込めるような環境であれば、組織は弱体化していきます。

また、日々の仕事上のちょっとした工夫やアイデア、仕事上の問題点なども、それがそもそも発言できないような環境をつくつていけば、組織は柔軟性を失い、次第に弱っていくのは明らかです。

さて、集団の成員に自由な発言をさせないようにするために最も重要になってくる概念は、先ほどもあげた評価懸念です。組織論の研究者であるAC・エドモンドソンは、評価懸念を生じさせないことで組織は活性化し、イノベーションを生み出せると述べています。評価懸念が生じない組織を彼女は「心理的安全」のある組織と呼んでいます。
サボタージュの観点からは、この逆のことをすれば効果的ということになります。つまり、組織に「心理的安全」をつくらせなければよいわけです。

エドモンドソンは、「心理的安全」をスタッフに行き渡らせるためには、リーダーシップが重要であるとしています。そして、心理的に安全な関係をつくり出すためのリーダーの行動をあげています。
それは、直接話のできる、親しみやすい人になる、自分もよく間違うことを積極的に示す、失敗を責めずそれは学習する機会であることを強調する、具体的な指示を行う、参加をうながす、などです。ということは、リーダーが、これを裏返して実行すれば、組織力を弱体化させることができるわけです。

エドモンドソンは、ある心臓外科の手術チームにおいて優れたリーダーがくり返し述べていた次の台詞を引用しています。「君たちの意見が必要だ、私はきっと何かを見落としているだろうから」。サボタージュの観点からすれば、こう言えばいいわけです。「俺に文句を言うことは許さん、おまえらがまともに仕事をできたためしがあるか。俺に意見するなど千年早いんだ!」
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注 「評価懸念」とは?
会議の場面では人は、問題自体の解決よりも自分自身が他人からどのように評価されるのかを気にします。議題の問題は一過性ですが、自分自身への評価はこの先ずっと続くからです。仮に上司が「気になることがあればいつでもジャンジャン言ってください」などと言ってもそれが本音かどうかは大人は大抵わかります。その結果、自由な発言を自分から抑制してしまうことになります。

注 最後にあげられていた心臓外科チームのリーダーシップは、航空のCRMを取り入れたものです。つまり、ブリーフィング、デブリーフィング、チームビルデイング、アサーション、group climate という概念がすべて含まれています。うちの、心臓外科チームもなかなかいい雰囲気なのですが、sterile cockpitとかbelow ten (thousand)という概念だけがたりないような・・・つまり、手術室が騒がしい!ということ(苦笑、残念)


100P少しの薄い本です。社会(組織)心理学入門として読むのもオススメです(28.3.院内LAN投稿)


(関連本)

チームが機能するとはどういうことか――「学習力」と「実行力」を高める実践アプローチ エイミー・C・エドモンドソン (著), Amy C. Edmondson (著), 野津 智子 (翻訳)


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