〔意見交換〕 1 ホーソンの実験とクリニカルパス

意見交換の一例を掲載します。ヒューマンファクターや安全管理ではもっとも重要な議論だと思っています。



話題Ⅰ (議論の続きです)ホーソンの実験とクリニカルパス
Aさん:
人間の脳が認識できる範囲は限られていますので、物事をグループ分けしてレッテルを貼るというのは致し方ないのですが、それがエラーの要因になることが多々あります。宅配便の制服に騙されて主婦が犯罪に合ったり、古くは3億円事件などという犯罪もありました。クリニカルパスやISO9000なども、欧米から輸入されたというだけで中身を検討せずにブランド意識をもっていませんか?両者の共通の原点は米国のフレデリック テイラーのベルトコンベアー方式ですが、これはフォード社に採用されて失敗しました。有名なエジソンはテイラーの親友ですが、ゼネラルエレクトリク(GE)社をつくったことはご存知でしょう。彼は発明王として小学校の教科書などで紹介されていますが、実際は金儲けの好きな山師であったようです。
有名なホーソン工場の実験はGEの子会社で行われました。これは「人間はやる気を与えられればエラーをせずに成果をあげる」とわが国ではいい意味で紹介されていますが、実際にはGEが「人間はアメを与えればどこまで低コストで働かせることができるか」を実験したものです。GEは現在でもシックスシグマという品質管理を産業界に広めていますが、その精神を受け継いだものです。わが国の医療界にクリニカルパスを導入しているのがGE社であるというのは、単なる偶然でしょうか。わが国にもフレデリック テイラーの根強い信奉者がいて、産業界の経営と労組(御用組合)とともに生産性運動を繰り広げています。クリニカルパスは産業界の生産性運動を医療界に持ち込んだものと考えればわかりやすいでしょう。クリニカルパスで医療事故が減るとは決して思わないでください。むしろ、増えると思った方がよいでしょう。有名な作家さんや○○研究所の所長さんは「医療界は航空にくらべて20年遅れている」などといった間違った情報を伝えてクリニカルパスを医療に持ち込んでいますが、反省してください。この場でこんな下品なコメントを書申し訳ありませんが、人の命に関わることですので、我慢できずに書かせていただきました。

Sさん:.「パス嫌い」
クリニカルパスについては「なんとなく嫌い」(理由もなく決め付けてはいけないのでしょうが)なために本当にしろうとです。改めて勉強した事などありません。GEとの関係など知るよしもありません。
ただ、ある時期から一挙に、それこそ猫も杓子も「パス、パス」と言い出した事に対する嫌悪感というか、胡散臭さを感じているからです(そもそも僕は少しへそ曲がりで、皆がする事は少し引いてしまう事があります)。

 ですから単なる感想でしかないのですが、明らかに経営サイトに立てば、収支の予算は組みやすい、ベッドの回転率も計算できる、ことはわかります。また支払いサイト(政府や健康保険組合)からすると科学的・効率的な医療の名のもとにパスを導入し、これと今導入されつつある包括払い制度をドッキングさせることにより、ある病気に対する診療報酬を削減するための根拠になりそうです(されてしまいそうです)。
  医療従事者からすると「パスにのっけてしまうと何もかんがえなくとも・・」というわけで、「医療の質(医療従事者の質)の低下」となりそうです。HF的な言い方をしますと、パスにのっけること、が目的となってしまい、病気を見たり、患者さんを診たりということが少なくなりそうな気がします。また患者の病状を心配したり、討議するのではなく「パスから遅れている」事が問題とされそうです。
製薬業界でも当然これに乗っかろうとしています。例えば、自社の抗生物質を第一選択としてパスやガイドラインで上位に「指定」されると売上倍増ですね。ますます、医療従事者はものを考えなくなりそうです。(失礼なMRは「○○病院のパスで第一選択にあげられているので(当院でも)是非」などというわけです)
 ですから、主だった病院がわれもわれもとパスを導入しているのを見ると、何か先端の事をしているつもりになっているのでしょうが、明日の自分達の首をしめていることにならないかと不安になります。

ただ、医療業界も弱みとして「パス」以下のレベルがかなりいる、だれがどう考えても変な事をしている医療従事者(組織)がいる、のでそのための「下ささえ?」という主張もあるようですが。

「ホ―ソン効果」については本で読んだだけですが、あらためて時代背景を考えてみると実験者の意図はそうだったのですね。

Aさん:.
安心しました          
過激な発言と眉をひそめられるのではないかと心配していましたが真面目に聞いていただいて安心しました。実はこの議論が安全管理では一番大切なことです。わかりやすく、自動車の運転に例えてみましょう。車の運転は運転操作がうまいだけでは駄目ですね。混雑した道路で、人や他の車、自転車などをうまく避けて、事故がないように走らせねばなりません。皆さんはほとんどの方が、実際にどのように運転すればよいかはわかっていますね。
ところが、ごく少数ですが違う考えをもつ人が現実にいるのです。道路の中心に線を引いて、人や車がお互いにその上を移動していれば事故は起こらないと考えている人達です。そうすることが安全と信じているのです。ゴルフコースの電動カートなどはカート道に埋め込まれた電線に沿って移動していますが、人間ははたしてそうなのでしょうか?人間の場合は中心線ばかりを気にしていると(ヒューマンファクターではヘッドダウンといいます)、周囲がよく見えなくなり、かえって危険ですね。ISO9000やクリニカルパスは、人間に中心線に沿って行動しろと言っているようなものなのです。これでは、あらかじめ想定されたケースはうまくできるかも知れませんが、想定しなかったことは対応できません。こういうと、彼らは想定しなかったことも経験した後でマニュアルに追加していけばよいと言います。このやり方で、産業界はどこもマニュアルの山が築かれています。こうなると人間はうんざりして、知らず知らずのうちにマニュアルを無視するようになります。それだけでなく、マニュアルがあるというだけで警戒心が薄れて、問題解決能力が失われていきます。ISO9000やクリニカルパスを推進している人達は、おそらくここまで深くは考えずに、世の中に敷かれたラインに何となく沿っていれば間違いはないだろうと思っているのでしょう。あるいは、なりふり構わず出世や昇進の道具に使おうと利用している人達もいるかも知れません。民主主義では競争は自由ですが、罪もない人達の命を犠牲にするのはどうかと思いますね。
話は違いますが、数年前にどこかの航空会社の飛行機が空港の照明塔に主翼をぶつけたという事故がありましたね。古い誘導路の中心線が消されずに残っていて、全乗員がそれを目で追っていて周りが見えていなかったそうです。こういう見方で物事を冷静に観察すると、今、社会のさまざまな場所で起こっている不具合は、人間がマニュアル主義の中で余裕を失っているためであることがわかりますね。
ISO9000やクリニカルパスのもととなったフレデリック テイラーの考え方には人間に対する冷たさがあります。テイラーの考え方の日本の総代理店である○○大学がCRMを売り込んでいますが、安全を真面目に考えてください。



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