〔意見交換〕 2 うつ病とデジタル化・自動化・マニュアル化



意見交換の一例を掲載します。ヒューマンファクターや安全管理ではもっとも重要な議論だと思っています。


話題 Ⅱ  「うつ病とデジタル化・自動化・マニュアル化」
Aさん
「医者の不養生」・・・医療界の方々も社会心理病(鬱病など)には悩んでおられるようですね。以前にある医学会でヒューマンファクターの講演をした時に、脳神経科の医師の方が、「このような脳の切り口があるのですね」と感心しておられました。左脳と右脳の間を結ぶ脳梁を切断したら癲癇が治ったという、公表されている唯一の脳の人体実験をご存知ですか?鬱病も癲癇に似ていて、左脳と右脳のアンバランス、つまり大雑把にいうと、顕在意識と潜在意識の不調和に関連しているようです。もっと噛み砕いた言い方をすると、感性の退化です。これは先進国病ともいわれ、わが国の社会のあらゆる分野で顕在化しているようです。自殺者が年間3万人以上というのも関連があるでしょう。確定的な原因や治療法についての研究は見たことがありませんが、脳はデリケートですから、いろいろな社会現象の影響を受けているというのが妥当な見方でしょう。個人的な見解では、食品添加物、農薬、携帯電話に代表される微弱電磁波の蔓延などが疑われます。また、意外に無視できないのが自動化やマニュアル化などのシステムのディジタル化でしょう。「決められたことを決められた通りに」というISO9000シリーズの品質管理の考え方も人々に無言のプレッシャーになっています。
医療界に導入されつつあるクリニカルパスもISO9000シリーズの派生型ですので、油断はなりません。本来のヒューマンファクターはISO9000シリーズと違って人間の感性を向上させるものですので、正しい形で社会に普及すると、事故防止だけでなく、自殺者の低減にも寄与するかも知れません。医療事故の増加を鬱病と結びつける考え方には賛同できません。正常な人間でもエラーをする可能性はいたるところに存在しています。・・・釈迦に説法かもしれませんが。

Sさん:
「鬱病」に関して(HFに関しても)は全くの素人ですので、マニュアルやシステムのデジタル化、ISO9000が影響している、という考え方は初耳だったのですが「なるほど」とおもいました。
 自動化やマニュアル化の弊害は(医療以外の分野では)かなり以前からいわれているようですね。
1)          自動化やマニュアル化で全ての業務が終わらない。自動化の効率が悪いところ、できないところ、残った仕事、は全て人間にかかってくる。
2)          そこでは人間は「機械」やシステムに合わせて、決まり切ったことを機械のように正確に、機械にあわせて、いつまでも疲れなどなく、余計なことを考えずに、「正しく」行動しなければならない。
3)          機械やシステムが壊れたり、出来ないときは人間がしなければならない。(急に負担が増える)
4)          やたらに書類、マニュアルの類が多くなる。仕事をすることでなく「マニュアルをつくる(パソコンで打ち込む)」ことで「仕事」をしているかのような気になる。組織の活性が低下。
思いつきですがこんな感じでしょうか?

医療ではクリニカルパスがかなりの病院で導入されつつありますし(「はやり」です)、テキストだの、「パス集」だのもたくさん発行されています。院長あたりからも担当部署には催促が行っているようですが、いい加減な病院(笑)なので殆ど進んでいないようです。経営的に役に立ちそうなことは判るのですが、患者さんにとって、我々にとって本当はどうなのかというところに納得していないからじゃないかな、と想像しています。ほかにも「医療機能評価機構」の認定もマニュアル作り、委員会作り・・・です。

 それでなくとも余裕のない医療機関(従事者)のエネルギー(お金も)を「システムの歯車になること」「歯車をつくること」に使われてしまっているような気がします。
 「ルールを作る」ということと「ルールに従う」、「ルール(システム)に縛られる」ということは皆違うと常に意識していなければならないと思います。

 連載のどこかで書きましたがノーマン教授の「もっと、パイロットに操縦させろ!(そのほうが安全だ)」というのと、NASAが自動化に関して「作業者が特有のスキル、生き甲斐を感じている仕事を自動化してはいけない」という言葉が自動化・システムのデジタル化・マニュアル化に対するHF側のスタンスのような気がします。
ご指摘通りですね。どんなことをしたって,そこで働く人間が生き生きとするようでなければ駄目だと思います。

また、鬱病(状態)と医療事故の増加とは何の関係もないと考えています。もし、そのような印象を受けられたのでしたらお詫びします。僕自身がある意味で「鬱状態」になったり、少しだけ「躁」になってみたりの毎日ですので・・・

Aさん:
さすがですね。まさに「打てば響く」・・・こちらの言わんとすることを120%理解していただきました。米国は1980年代からクリニカルパスを採用していますが、その副作用で年間98,000人の医療事故死亡者(1998年、ワシントンポスト紙)を出しています。わが国でもPDA(Personal Digital Assistance)の盲信による薬剤の取り違えなどが報告され始めていますね。それよりも深刻なのは、大病院では医師が患者の顔を見たり触診をせずに、後ろ向きでパソコンのキーボードやマウスをいじって、アンケートのように患者に質問して答えを打ち込んでいることです。米国でも同じで、その結果、医師の診断能力は著しく低下しています。横浜市大病院の患者取り違え事故も、本当は看護師さんがベルトコンベヤーの流れ作業の作業者になっていて、患者を人間としてではなく製品として扱ってしまったことが原因ですが、専門家の先生方はそれに気づかずに全く逆の対策を考案してしまいました。患者にバーコードつきのリストバンドを取り付けるというものですが、ますます患者を品物扱いしています。リストバンドを取り付けるのも人間であり、取り付け間違いをすれば最終工程まで発見されません。米国ではこのバーコードで多くの患者が亡くなっていることを知るべきでしょう。
このようなクリニカルパスを、誰が、何の目的でわが国に導入しようとしているのでしょう。想像がつきますね。米国と日本の医療を標準化すればきっとよいことがあるのです。そのかげで多くの患者が死んでもよいのでしょうか。医療関係者個人も訴訟などで泣くでしょう。CRMThreat&Error Managementでも米国の片棒をかついでいる人達がいますが、これもISO9000の派生であり、エラーを防止するには規則をつくって守らせればよいという概念です。仕方のないことかも知れませんが、押し付けられたディジタル化の中では一人ひとりが感性を磨くしかないようですね。怖くて鬱病になる余裕すらありません。因みに、ベルトコンベヤー方式は米国のフレデリック テイラーが考案したものですが、チャップリンが映画「モダンタイムズ」の中で痛烈に批判しています。
(Sさんの)奮闘を期待します。

 

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